ライブ配信の回線選び — 会場のネットワークをロケハンで見極める
会場の回線をそのまま配信に使えるかは、ロケハンでの確認で決まります。有線か無線か、経路とケーブルの状態、当日の共有状況、速度試験で見るべき数値——現場で実際に確認している項目を順にまとめます。
文 / YKC(イベント配信エンジニア / SynQNow 開発者)

配信のトラブルで最も多く、そして当日にはほぼ直せないのが回線です。機材は予備を持ち込めますが、回線は本番中に太くできません。どの回線で配信するかは、準備段階で決まる勝負です。
結論を先に言います。会場のネットワークを見るときの基準は「速いか」ではありません。「安定して、配信のために使えるか」です。この記事では、ロケハン(会場の下見)で実際に確認している項目を順に並べます。
まず、配信に使える有線LANがあるかを確認する
最初の確認はシンプルで、「会場にネットワークがあるか」。ただし、ここで言うネットワークとは有線LANのことです。
「Wi-Fiがあります」という回答は、配信に使える回線があるという意味ではありません。無線LANは速度と遅延の揺らぎが有線とは桁違いに大きく、しかも電波環境は当日になって変わります。来場者のスマートフォン、テザリング、隣室の機器——ロケハンの静かな会場と満員の本番は別物です。配信の送出に使うなら、有線LANを必須と考えます。
有線が無い場合は、フレッツ回線などを臨時敷設する選択肢があります。イベントの実施日に合わせて日割りで敷設できますが、申し込みは最短でも使用の1か月前で、工事や建物側との調整も必要です。使えそうな回線が無いと分かった時点で、早めに判断します。手配の流れは配信回線の臨時敷設にまとめました。
ロケハンで、自分の目と自分の機材で測る
会場の担当者が「配信でも使えますよ」と言ってくれても、それをそのまま信じることはしません。ロケハンの時点で速度試験を行い、自分の目で確認します。 そのとき見るのは、数字だけではありません。
経路とケーブルの長さを確認する。 LANケーブルは長くなるほど信号が減衰し、速度低下の原因になります。配信席から回線の出口まで、実際にどんな経路で、どれくらいの長さで引かれているのか。図面だけで済ませず、可能なら実物を追いかけます。
借りるケーブルの状態を確認する。 会場にLANケーブルまで用意してもらう場合、コネクタの爪が折れていることがあります。 爪が折れたケーブルは、挿さっているように見えて本番中に抜けかける、接触不良を起こすといったトラブルの種になります。ロケハンで実物を確認し、不安があれば自前のケーブルを持ち込みます。
当日、その回線を誰と共有するのかを確認する。 ロケハンで測った数字は、「その瞬間の、空いているネットワーク」の数字です。当日、同じネットワークを別の用途——事務用のPC、受付システム、来場者向けWi-Fi——と共有することは無いか。共有するなら、どれくらいのアクセスが見込まれ、それは配信の障害にならないレベルなのか。ここを確認せずに本番を迎えると、開場と同時に帯域が消えます。
速度試験では「最高速度」を見ない
スピードテストの結果で目を引くのは大きな数字ですが、配信で見るべきはそこではありません。
最低速度と平均速度を見ます。 配信は、一定のデータを長時間流し続ける使い方です。瞬間的に速いことよりも、最後まで安定して出続けることのほうがはるかに重要で、安定さえしていれば、速度自体は控えめでも問題ないことが多いのです。目安として、上り(アップロード)で配信ビットレートの3倍以上が常時出ていれば、余裕を持って組めます。
揺らぎが無いかを見ます。 数分間流し続けて、ときどき通信が詰まる、速度がふっと落ちる——そんな「パケットが詰まっている感覚」が無いかを確かめます。数値の目安は、PINGが30ms以下、ジッタが5ms以下。有線の光回線でこれを超えるようなら、経路のどこかに問題を疑います。
この揺らぎは、本番中にはエンコーダーのキャッシュ値として現れます。ロケハンで揺らぎの兆候をつかんでおくことは、当日どこを監視すべきかを決めることでもあります。
まとめ — ロケハンの確認リスト
- 会場に有線LANがあるか。無線LANのみなら配信の送出には使わない
- 有線が無ければ臨時敷設を検討する。申し込みは最短1か月前、判断は早めに
- 速度試験は自分の機材で、借りる予定の場所とケーブルで行う
- ケーブルの経路と長さ、コネクタの爪の状態を実物で確認する
- 当日その回線を誰と共有するのか、そのアクセス量は障害にならないレベルかを確認する
- 見るのは最高速度ではなく最低速度・平均速度・揺らぎ。上りが配信ビットレートの3倍以上を安定して出せれば、十分に戦える
回線は、当日に直せない数少ない要素です。だからこそ、ロケハンでの1時間が本番の安定をほぼ決めます。
この記事の確認項目は、印刷して使えるチェックシート(A4・記入式)にまとめてあります。ロケハンに持参して、その場で測定値まで書き込める作りにしてあるので、ご自由にお使いください。
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この記事を書いた人
YKC
イベント配信エンジニア / SynQNow 開発者
イベント制作の現場に25年、映像配信に20年近く携わってきました。オンライン配信が当たり前になるより前から、拠点間中継やライブ配信の現場に立っています。
- イベント制作の現場に入り、以来25年にわたって本番運営に携わる
- 映像配信に軸足を移し、20年近く配信オペレーションと技術設計を担当
- オンライン配信が一般化する以前から、拠点間中継・遠隔中継の現場を手掛ける
- 株主総会をはじめとする、失敗が許されない配信の現場を数多く経験
- 現場で繰り返し直面した課題をそのまま設計に落とし、SynQNowを開発
- ライブ配信
- 超低遅延配信
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