ボンディングルーターとは — 回線を束ねる仕組みと2つの種類
複数の携帯回線を束ねて配信用の安定した経路を作るボンディングルーター。パケットを分散して対向で束ね直す仕組み、配信エンコーダ内蔵型とインターネットアクセス専用型の違い、超低遅延の配信につなぐときの注意点を解説します。
文 / YKC(イベント配信エンジニア / SynQNow 開発者)
前編・後編で、イベント期間だけ光回線を臨時敷設する話を書きました。ただ、現場にはそもそも回線を引けない会場があります。工事の許可が下りない。使えるインターネット回線が無い。屋外である。あるいは、車載のように場所そのものが動く。そこで出てくるのがボンディングルーターです。
ボンディングルーターは、複数の携帯回線をパケット単位で束ね、1本の安定した経路として使う装置です。ただし送信側の機材だけでは成立しません。分けたパケットを束ね直す「対向」が必ず要ります。そして製品は大きく2種類——配信エンコーダ内蔵型とインターネットアクセス専用型——に分かれ、どちらを選ぶかで配信システムへのつなぎ方が変わります。
仕組み — 分けて送り、対向で束ね直す
やっていることは図のとおりです。送りたいデータをパケット単位で分割し、複数の回線へ分散して送ります。受け側のボンディングサーバ(対向)が、到着したパケットを並べ直して1本のデータに戻します。回線を束ねる処理は送信側と受信側のペアで初めて成立するので、機材を手配するときは対向の手配までがセットです。対向はメーカーがクラウドとして提供している場合と、自前でサーバーを立てる場合があり、ここが製品ごとのコスト構造の違いになります。
挿す回線は、キャリアを分けるのが基本です。同じキャリアのSIMを何枚並べても、その1社が弱い会場では全滅します。
「束ねる」には3つの動きがある
ひとくちにボンディングと言っても、中身の動きは分かれています。Peplinkの整理が分かりやすいので借ります。
| 機能 | 動き | 効果 |
|---|---|---|
| ボンディング | パケットを全回線に分散する | 合計の帯域を1本のように使える |
| スムージング | 同じパケットを複数の回線へ重複して送る | 帯域と引き換えにパケットロスを埋める |
| フェイルオーバー | 障害時に健全な回線へ即座に切り替える | セッションを切らずに継続する |
出典: Peplink SpeedFusion Bonding & Failover Technology
配信の現場で効くのはスムージング寄りの考え方です。回線を束ねる目的を「速くすること」に置くと期待を外します。帯域を増やすためではなく、落ちないことに帯域を使う装置だと捉えるのが実態に合います。
種類は2つ — 出したいものが「映像」か「回線」か
「ボンディングルーター」で検索して出てくる製品は、実は2系統に分かれています。価格だけを並べても比較になりません。
1. 配信エンコーダ内蔵型 — 映像を届ける機材
カメラの映像をその場でエンコードし、束ねた回線で対向へ送るところまでが一体になった機材です。中継や報道の現場で定番になっています。代表格はLiveUのLU800、TVU NetworksのTVU One、DejeroのEnGo、HaivisionのPro460、TeradekのPrism Mobile。国産では、日本語サポートと国内実績を持つソリトンシステムズのSmart-telecaster Zao-Xがあります(製品ごとの違いは手配編にまとめました)。
受け側は各メーカーの受信機やクラウドです。エンコードと伝送が一体で設計されている分、現場の機材構成は簡潔になります。
2. インターネットアクセス専用型 — 回線を作る機材
束ねた結果を、普通のインターネット回線として出す機材です。配信PCやハードウェアエンコーダの手前に置き、上流の回線として使います。代表はPeplink、TVU Router、Dejero GateWayです。
映像に限らず何にでも使えるので、配信システム側から見ると「安定した回線が1本増えた」のと同じ状態になります。
どんな現場で使うのか — 回線が引けない3つの場面
安定性という一点で言えば、回線を敷設して有線LANを使うのが間違いなくベストです。それでも、物理的に無理な現場はあります。私が実際に当たったのは次の3つでした。
1. 物理的に回線を引けない。 屋外、そして車両のように場所そのものが動く配信です。敷設という選択肢が最初から存在しません。
2. セキュリティの都合で使わせてもらえない。 典型は社内の会議室です。回線自体はあるのに、社内ネットワークは情報システム部門の管理下にあり、外部の配信機材をつなぐ許可が下りません。
3. リードタイムが確保できない。 急な依頼で、臨時回線の申し込みから開通までの時間が取れない場合です。前編で書いたとおり敷設は工事日程からの逆算が要るので、日程が足りなければ技術的な可否以前の問題になります。
会場の電波は、人が入ると変わる
確認するのは電波状況の実測です。地下、鉄骨の建物、窓のない部屋は弱くなります。そして空の会場で測った数字はあてになりません。観客を集める施設からの配信では、人が増えるほどLTE・5Gのトラフィックが増大し、通信が不安定になることが想定されます。回線選びの回で、会場の共用ネットワークは「当日それを誰と共有するのか」を確認すべきだと書きました。携帯回線を束ねる場合も構造は同じで、違うのは共有相手です。会場にいる観客全員のスマートフォンとPCが、同じ電波に乗ってきます。
ただし、携帯網全体のキャパシティは会場の共用回線とは桁が違うので、そこまで悲観する必要はありません。キャリアを分散させる理由の1つとして認識しておく、という程度が実態に合います。同一キャリアで揃えていると、その1社が混んだ時点で全滅します。
手配は、対向とSIMを含めて借りるのが現実的
イベントごとに使う使い方であれば、送信機・SIM・対向をセットにしたレンタルが現実的です。契約と設定を自前で抱えずに済みます。見積で必ず確認するのは、対向が含まれているかです。送信機だけを借りても、束ねたパケットを戻す先が無ければ配信は成立しません。借りられる製品と取扱各社、確認すべき項目は手配編にまとめました。
配信プラットフォームへのつなぎ方は、種類で変わる
2つの種類は、配信プラットフォームへのつなぎ方も変えます。ただし種類を問わず、先に押さえておくべき前提が1つあります。
超低遅延を狙うなら、束ねた分の遅延が乗ることを前提にする
ボンディングは、遅延と引き換えに安定を買う仕組みです。 複数の経路へ分散したパケットは、到着の順番も時刻もばらつきます。対向でこれを並べ直すには「まだ届いていないパケットを待つ」処理が必要で、その待ち時間がバッファとして積まれます。同じパケットを重複して送るスムージングを効かせるほど、この傾向は強くなります。
つまり、プラットフォーム側の遅延に、伝送側の遅延がそのまま上乗せされます。超低遅延を前提にした設計であっても、会場の映像が視聴者に届くまでの時間は、有線で送出した場合と同じにはなりません。ここは仕組み上避けられない部分です。
インターネットアクセス専用型は、そのまま使えます。 配信拠点の上流回線として置けば、配信ソフトやエンコーダから見える世界は有線回線のときと同じです。臨時回線が引けない会場でも、配信拠点を成立させる回線として機能します。
配信エンコーダ内蔵型は、対向から先の経路を設計する必要があります。 映像はいったんメーカーの対向に届くので、そこからどう配信プラットフォームへ入れるかが問題になります。ここで注意したいのが、エンコード設定の互換性です。超低遅延の配信基盤として使われるAWS IVSのリアルタイム配信は、RTMP入力にH.264 Baselineプロファイル・Bフレーム無しを要求し、条件を満たさないストリームは切断されると明記しています(出典: Amazon IVS Real-Time Streaming — Stream Ingest)。一方、放送用の伝送機は圧縮効率を優先したプロファイルを既定にしていることが多く、そのままでは通らない可能性があります。設定を変えられるかをベンダーに確認し、必ず事前にテスト伝送をしてください。画質が落ちるのではなく止まる種類の非互換です。
確実に通したい場合は、スタジオで一度受けて、作り直して送る構成にします。伝送機の映像を受信機でSDIやNDIに出し、手元のスイッチャーやエンコーダから通常の送出として配信すれば、エンコード条件を自分で握れるためプロファイルの問題は原理的に起きません。複数の現場からの映像をスタジオに集める、リモートプロダクションと同じ構成でもあります。
ブラウザ送出を使うなら、選ぶ機材が変わる
配信元の映像と質疑応答(SkyWay)に参加している質問者の映像をブラウザ上でミックスし、そのまま超低遅延配信(IVS)へ送出する方式を、超低遅延モードのイベントで選べるようにしました。エンコーダや配信ソフトを現場に持ち込まず、ブラウザが動くPC1台で送出を完結させる方式です。詳しくはエンコーダを持ち込まない — ブラウザ1枚で送出と質疑応答を回すに書きました。
この方式を前提に置くと、ボンディングルーターの選び方が変わります。映像を運ぶ仕事はブラウザとプラットフォーム側が受け持つため、エンコーダ内蔵型の出番はなくなり、現場の機材に残る仕事は「安定したインターネット回線を作ること」だけになるからです。つまり選ぶのはインターネットアクセス専用型です。質疑応答のSkyWayも配信の送出も同じ回線に乗るので、束ねて安定させた効果がそのまま両方に効きます。
いま機材をそろえるなら、エンコーダ運用でもブラウザ送出でも役割が残るのは、インターネットアクセス専用型のほうです。なお送出の方式が変わっても、対向で束ね直す以上、遅延の上乗せは残ります。
まとめ
- ボンディングルーターは送信側だけでは成立しません。対向(集約点)の手配までがセットです
- 速くする装置ではなく、落とさない装置として使います。効いているのはスムージング(重複送出)です
- 製品は2系統あります。出したいものが映像ならエンコーダ内蔵型、回線ならインターネットアクセス専用型です
- エンコーダ内蔵型を超低遅延系のプラットフォームへ直接入れるときは、Bフレームなどのエンコード条件を確認し、必ず事前にテスト伝送します
- ブラウザだけで送出する方式(開発中)では、現場の機材に残る役割は回線側だけになります。これから機材をそろえるなら、インターネットアクセス専用型のほうが長く使えます
- 使うのは回線が引けない現場です。物理的に無理、セキュリティ上できない、日程が足りない——この3つが実際の場面でした。第一選択ではなくセーフティネットとして置きます
- イベント用途なら、SIMと対向を含むパッケージのレンタルが現実的です(手配の詳細)
- 遅延と引き換えに安定を買う仕組みです。対向での並べ直しにバッファが要るため、超低遅延を狙う配信では伝送側の遅延が上乗せされることを前提に設計します
- 電波は人が入ると変わります。ロケハンでの実測を空の会場の数字で済ませないことです。電波が入らなければ、端末を電波の届く場所へ出してケーブルで引く手もあります
回線を落とさないための考え方は、前編で書いた冗長構成——線種を分けて幹線から冗長を取る——と地続きです。光回線が引けるなら引く。引けない・間に合わない・移動する。そのときにボンディングルーターが効きます。
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この記事を書いた人
YKC
イベント配信エンジニア / SynQNow 開発者
イベント制作の現場に25年、映像配信に20年近く携わってきました。オンライン配信が当たり前になるより前から、拠点間中継やライブ配信の現場に立っています。
- イベント制作の現場に入り、以来25年にわたって本番運営に携わる
- 映像配信に軸足を移し、20年近く配信オペレーションと技術設計を担当
- オンライン配信が一般化する以前から、拠点間中継・遠隔中継の現場を手掛ける
- 株主総会をはじめとする、失敗が許されない配信の現場を数多く経験
- 現場で繰り返し直面した課題をそのまま設計に落とし、SynQNowを開発
- ライブ配信
- 超低遅延配信
- WebRTC
- HLS
- RTMP
- SRT
- 拠点間中継
- 株主総会配信
- IR・決算説明会配信
- 社内配信
- イベント音響・映像オペレーション
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